王子

凱旋

我が民よ、民達よ。息災であったか。 歌え、踊れ、そして寿げ。 私が帰ってきた、そなたたちの王子が戻ってきたのである。 それは激しき戦いであった。 昨年の暮れの激戦*1の記憶も生々しいままに、私はかの戦場*2に再び舞い戻ったのである。 もうここには二…

小鳥

先日より私の責務に新たな儀典が加わった。 小鳥の儀*1である。 やや茶番じみた数々のルーティンをこなすことも王族の務めと心得ている。 いわゆる一つの、私はお前と違って、パイロットだけをやっているわけにはいかん、といったところであろうか。 閑話休…

継続

春の光がやわらかいではないか。 ほんの少し前まで、あんなにも風吹きすさぶ厳寒の日々であったとことを思わず忘れそうになってしまう。 我が民達は、そしてもう一つ大切な事実を忘れがちであるのではないか。 それは、この春が、私のたゆまぬ務めによって呼…

その手を

私が御幸より宮殿に帰りし折には、外界と神聖なる宮殿内の世界を分かつために、手水舎*1にて我が御手を清める儀式を執り行っている。 尽きることを知らぬ滝のごとき水流に手をかざし、俗世の塵を洗い流すのであるが、これがどうしたことであろうか、ばあやが…

小さき者よ

我が王国には多くの種族が存在する*1。 各々は時に戦い、時に有効な関係を結びながら、これまで共存共栄を続けてきた。 そして言うまでもないことであるが、それら全ての種族を統べるのが我が王室である。 我が王室、そして王族は、人類の姿を借りながらも「…

如月の

我が王国、いまだに冬将軍との接戦が続いており、日々実に寒くあることにおいては、この私の輝かしい戦歴において唯一の汚点と呼べないこともないわけであり、太陽王子であるところの私も深く遺憾に思うものである。 というわけで、我が民達よ、息災か。 私…

沈黙は

我が王室に伝わる儀典、歯磨きの儀が苦痛である。 王子たる者、宴を終える度に私自身の健康を祈念し王室の繁栄を祈るこの茶番をこなさなくてはならないのだが、これが実に不快である。 理念的には私が絶対的に服従させているはずのばあやが横たわる私の上に…

不可分

ばあやの蛮勇たるや時に呆れ驚くほどである。 私の目の前で平然と悪事をはたらくことがある。 本来ならば反逆罪に問われるところであるが、そのたびに度重なる恩赦をほどこしている私は慈悲深さも度が過ぎてあまりに甘すぎるのではないかと遇に反省すること…

地を見よ

空を舞う翼を持ちながら地を歩く者がいる。 私がことさらに愛でている種族であり、ここでは仮に鈍色の羽の寵愛*1と呼ぶことにしよう。 鈍色の羽たちはそこかしこにおり私が御幸するのを待っている。 実に好感のもてる者たちである。 少し足りぬところもある…

空を見よ

私の徳は地に満ちている。 私の支配力も遍くこの大地に及んでいる。 そしてそれは同様に無限の海と空にも言えることなのだと認識していた。 もちろん、海と空が私の徳と力によって支えられていることは明白なのだが、どうにも空に関して言えば私の力と拮抗す…

宝石

寒い日々が続くが私の民達は息災であろうか。 気温は低いがこれは便宜上のことであり、私の民達の守護者であり支配者であるところの私に対する熱い愛情が今日も王国中に漲っていることを私はひしひしと感じる。 こういった気温が便宜上低い日には我が宮殿に…

音を楽しむ

私は音楽が好きだ。 テレビジョンの民などが楽しげな音楽を奏でていると、気持ちが高揚し、軽やかに舞を舞ってしまうほどだ*1。 テレビジョンの民との謁見の他にも、音楽の小人が住んでいるという王室秘伝の小箱*2なども愛でている。 小箱から魅力的な音色が…

国力

我が国にはまだ私に伏せられている軍事上の機密が多いと見える。 私こそがこの国の至上の力であるというのに。 先日御幸していた折、偶然にある一室に足を踏み入れた。 そこ*1には、なんということであろうか、壁一面に軍用車両が並び、彼らのリーダーたるこ…

それは文化であるのか或いは

私にはまだ見ぬ父*1がいるという。 その父は字義上は我が王国の王なのかもしれぬが、周知のとおり、この宇宙において最上位の存在即ち王子であるため、言うまでもなく、我が王国だけでなく全宇宙の中で一番尊い存在が私である。 父あるいは王がいたとしても…

綸言

陰鬱なる館*1を訪れた。 蒼くほの暗い廊下に、なんとかして華やぎを加えようとしているのか、さほどうまくもない手作りのおどけた動物やら花やらが飾られており*2、かえって寒々しい。 ばあや曰く、私の聖誕の1年半を寿ぐための秘密の儀式があるのだという*3…

時をかける王子

私の力で新しき年を呼び寄せるために、実に美麗で大規模な御幸をした*1。 新年は来るものではない、私が呼ぶものである。 あまりにも自然に当たり前のように流れている時間もすべて私の力によるものである。 宇宙の理、それは即ち、私の力である。 新しい年…

融合

この世のあらゆる分野で人間の技術とアイディアは日々進化を遂げる。 それは食においてもしかり、である。 この日記を読んでいる弱く貧しき者たちにとっては聞いたこともない話であり、まるで自慢のように聞こえてしまうおそれもあるが、この世界にはこのよ…

祝祭の中の責務

私は万物の命が輝きを増す初夏の美しき佳き日にこの世に生を受けたのだが、この冬の一日、太陽が再び明るさを取り戻す境目の日をある意味において私の誕生の日との意義をこめて祝うこともあながち間違いではないと思っている。 その証拠にこの日に民は喜び、…

慈愛の朝

天かけるアポロンの使者が帳の隙間より我が宮殿を訪れる*1。 宮殿の中に足を踏み入れた彼らはまだ薄暗き部屋を満たす輝きに驚き、思わずその目を閉ざしてしまうのではないだろうか。 もちろん、私が放つ徳の光におののいて、である。 私がそのようにアポロン…

防人の詩

凍てつく大地にも私が踏みしめた跡には花が咲きはじめるという。 私は、まさに生命そのものなのであろう。 今日またこの冬空の枯れ木たちにひと時の春の夢を見せてやるべく、御幸にいそしんでまいった。 私が御幸の最中、慈愛をふりまきながら歩いていると*1…

学究

木からりんごの実が落ちるのを見て何がわかるというのか。 私は王子でありながら学究の徒でもある。 りんご一つが落ちる事象から拙速に結論に飛びついたりはしない。 王子のみが座ることを許される宴の椅子*1から見渡せば、私の徳と力がすみずみにまでいきわ…

聖なる痕

私の民たちよ、息災か。 そなたたちの庇護者であり統治者であるところの私が不在であった折、皆の者がいかほどにその小さな心臓を不安にはためかせていたかと思うと、私の心も痛まないこともない。 口外は無用とのふれを出していたのだが、私の徳は堰き止め…

復活

その日より七日がたち、女たちはかのベッドが空になっていることに気づいた。 クラッカーを持て、バナナを持て。 復活の時は来た。 陽はまた昇り、民を照すであろう。 復活は金曜日。 ばあやでございます。 ベッドは空になりましたが、まだ病室よりお出にな…

野戦病院

ばあやでございます。 もったいなくも王子様よりウイルスを賜り、さながら熱病のごとき日々にございました。 王子様が休まれる傍らで畏れ多くも王子様の腰巻(未使用)に顔を押しあてながら天と地の境を行き来していると先の大戦の折の我が王国の勇姿とかの…

おふれ

王子様がやんごとなくご入院されてるので国をあげて祈祷するように。 国外、すなわちバチカン市国からの祈祷も歓迎する。

生命の泉

我が宮殿内にはそれを口にしたものに永遠の命を授けると言われる生命の泉*1がある。 かつて七つの海を震え上がらせたカリブやソマリアの海賊達がこの泉をめぐって死闘を繰り広げたという話も人口に膾炙しているところであろうと思うが、私の治世になってから…

そのように

近頃、私の崇高な鼻が断続的にその存在を主張する*1。 どうも、冬の妖精が私の治世を讃えるために辺りを乱舞し始めたあたりからずっとそのような様子である。 ちなみに、冬の妖精が私の長寿と繁栄を祈願するために辺りを乱舞し始めたあたりから、私がこの御…

小さきもの

私が御幸するときは、空を高く舞う鳥の王子であるところの鷲のような視野を私自身が備えているという美徳はさておいて、地を這う地上の星がごとき、つつましやかにけなげに生きているものたちを愛しむ視点を忘れないようにしているつもりである。 先般、また…

慈しみの冬

「その手に握る食べ物を目の前の恵まれない人の口にいれなさい。あなたの心が満たされるでしょう。」という一節を知らぬ者はいないと思う。 なんと含蓄のある言葉であろうか。 私の言葉である。 いよいよ冬の訪れを感じる昨今であるが、私の民は飢えてはおら…

果物

果物の中にも序列というものは存在するらしい。 今までも数回述べてきたと思うが、バナナは果物の中では王子と呼ばれるべき存在であり、それはすなわちその世界における第一位の存在であるという意味である。 私もこの世のあらゆる珍味を口にしてきたが*1、…