少年は空を見ていました
しばらくブログが更新されていないことに王子様はおむずかり。
そんな王子様に語り部が語って聞かせたのです…。
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少年は空を見ていました。とびっきりの空を。いつも見ていました。いつまでも見ていました。
少女は空を見ていました。あふれてしまいそうな空を。いつも見ていました。いつまでも見ていました。
少年と少女は出会いました。
少年は少女を見ました。どれほど見ても限りない,その少女を。いつまでも見ていました。
少女は少年を見ました。見るほどに透明な,その少年を。いつまでも見ていました。
二人は恋に落ちました。そして,いつも見つめあっていました。
ある日,少年は空を見ました。なんだか,はじめて見るような空です。つまらない,そんな空です。少年は空を見るのをやめました。
ある日,少女は空を見ました。まぶしい,少女はクシャミをしました。そのまま歩いてゆきました。
二人は年をとりました。二人でいっしょにとりました。
ある日,二人は空を見上げました。首が痛くなりました。二人は見つめあい,お互いに肩を叩きました。そして,歩いてゆきました。
おばあさんは死にました。おじいさんは悲しみました。たんぽぽのぽつぽつと咲く小道をよたよたと歩くおじいさんに,行き逢う人は呼びかけます。
「元気かね,おじいさん」
おじいさんは答えます。
「元気なのかな。わしゃ,わからんよ」
人々は顔を見合わせ,しみじみと言うのでした。
「かわいそうに。あんなに寂しそうな人って,見たことないよ」
おじいさんは生きました。長く長く生きました。小道には,ひまわりが咲き,すすきが揺れ,茶色になり,そしてまたたんぽぽが咲きます。よたよたと腰を曲げ,地面を見つめながらおじいさんは小道をゆきます。行き逢う人は呼びかけます。
「どうだね,おじいさん」
おじいさんは答えます。
「うん,まだ生きてるよ」
ある日,おじいさんは小道を歩いていました。よたよたと揺れるおじいさんの頭に,なにかが当たりました。おじいさんは見上げました。もみじが,風に吹かれて降っていました。
「こりゃ,これが当たったのか…」
もみじを落とす,その木を見上げました。紅く黄色く色づいた葉を湛える枝々の間から,空が見えました。とびっきりの,あふれてしまいそうな空です。あの,空です。おじいさんは静かに,いつまでも見ていました。ほんとうにとびっきりの空だったのですから。ほんとうにあふれてしまいそうな空だったのですから。
空は,いつだって空なのですから。
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