2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

美味を求め

私が民の王子ならば、それは果実の王子と呼ぶにふさわしい。 言わずと知れたバナナのことである。 私も好んで食している。 食していた、というべきか。 どのように好ましいものも、ある時ふとその美味について懐疑の念を抱いてしまうことはないだろうか。 バ…

その手に輝くは

王族の心と秋の空。 常に泰然自若として迷える民の北極星として生きることを義務付けられたやんごとなき私のような者も、秋の空を眺めながら、たまには典雅なほどに軽やかな心変わりを見せることもまた雅なことである、という意味のことわざである。 先日ま…

永遠

私はかりそめよりも永遠を好む。 風が吹き波が寄せれば消える浜辺の砂絵にも風情はあるが、王族たるものより確固とした足跡をそこかしこに刻むことこそ重要であり、それこそが即ち歴史である。 それこそが、当世そして未来において、我が王国に生まれ死んで…

民の希望

ばあやが私に向かってよく言うことがある。 あなた様は民の希望である、と。 当然のことであり、周知の事実なのであるが、重要なことなので繰り返し復唱するというのも大切なことである。 ばあやはこう続ける。 私めがあなた様の御幸にしたがっておりますと…

甘露

我が鼻孔より湧き出ずる泉よ*1。 汲めども尽きぬ、不死の泉よ。 それは時に、この秋の空に吹き渡る風のように澄み渡り、 あるいは、今はまだ遠き春の萌える緑を思わせる色味を見せる。 この泉が湧くとき、我が眼前に開かれしは甘露*2への道。 何処より来たり…

白き悪魔の館・再来

熱くたぎる我が血潮のごとく湧き出でる泉。 生命が生まれた原始の海もかくや。 昨日よりまた私の気高き鼻孔から聖なる液体があふれ出るようになった。 夏過ぎて実に気持ちのいい季節になってから度々見られる奇蹟である。 昨晩などは、ほぼ宗教的熱狂といっ…

自由の代償

乗物を替えることにした。 輝く私にさらなる輝きを与えんと降り注ぐ夏の日差しを遮ることもできる優美な乗物*1から、ただ一騎、荒野を駆ける高貴なる白馬の如き乗物*2へと乗り換えることにしたのだ。 私は、やはりやんごとないため、ばあやの手厚い警護を甘…

カップの中の嵐

聞きたくはないか、小鳥のさえずりを。 堅牢なる鉄壁のセキュリティを誇る我が宮殿。 一歩その外に出れば我が王室の祝福を受けためくるめくメガロポリスと生命が躍動する大自然の渾然一体となったコラボレーションが展開するのだが*1、宮殿の中は静寂にして…

手綱

ご存知の通り、我が宮殿にはドラゴン*1が住んでいる。 高貴な人間が下等な動物を手ずから御するのははばかられるという伝統的な考え方があったため、これまではドラゴンの扱いに関してはもっぱらばあやにまかせていた。 私はあくまでばあやが操っているドラ…

愛の配分

この地上の99%以上の土地を実効支配しており*1、かつ、その徳たるや天上天下知らぬ者なしといわれる我が王国であるため、私などはいかにも普段から多くの民とふれあい祝福を与えているのではないかと思われているが、意外にも接する機会のある人間は少ない。…